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第26回 ホモ・サピエンス型世界認識(4)

 長期記憶と遺伝子の発現の関わり

 記憶には「短期記憶」と「長期記憶」というものがあります。短期記憶とは、数秒から数分で消えてしまう短い記憶のことを指し、長期記憶とは、何年・何十年経っても消えない長期的な記憶のことを指します。母親のうちにある「産声の記憶」とはもちろん、後者の「長期記憶」に相当します。

 脳細胞ニューロンの結合部位であるシナプスには、「可塑性」があると言われています。シナプスの可塑性とは、粘土を指で押すと押したところがへこんだままであるように、或る刺激がシナプスからシナプスへ伝達されると、その伝達通路がそのままの状態で保存されるという現象を指します。このシナプスの持つ可塑性こそ、「記憶」のメカニズムと密接な関係にあります。一度シナプスに出来た通路はそのままの形で残り、そして何らかの刺激があると、再び活性化します。つまりこのメカニズムこそが、記憶の保存・再生というものと深い関わりを持っているのです。シナプスの短期的な可塑性とはつまり、「短期記憶」と等しく、シナプスの長期的な可塑性とは「長期記憶」と等しい、と言うことが出来ます。

 短期記憶において、シナプスに残った通路の痕跡は、数秒から数分ですぐに消滅してしまいます。一方、長期記憶においては、シナプスに残った通路の痕跡は時間が経っても消えません。なぜなら、そこにニューロンの遺伝子の発現ということが関っているからです。
発現」とは、普段は情報に過ぎない遺伝子が、実際にタンパク質に変換される過程のことを指します。なぜシナプスの可塑性には短期と長期の違いが出てくるのかというのは、遺伝子の発現によるタンパク質の合成ということがその理由としてあるようです。短期記憶の場合、タンパク質の合成を介さないので、痕跡がすぐ消えてしまうのです。
 強い刺激がシナプスに伝えられたとき、その刺激はニューロン細胞の核まで届きます。つまり、細胞核内の遺伝子にまで届きます。そうすると、刺激を受けた遺伝子は「記憶せよ」というメッセージを発します。結果、メッセンジャーRNA(mRNA)とタンパク質が新たに合成されます。この仕組みにより、シナプス同士の伝達通路が、新たに合成されたタンパク質によって補強され、記憶の長期的な保存が可能になるのです。
(参考:『脳と無意識~ニューロンと可塑性』フランソワ・アンセルメ+ピエール・マジストレッティ=著 長野敬+藤野邦夫=訳 青土社)

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