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第2回 ゲンジン先生

 担任の原先生は、子どもたちから「ゲンジン先生」と呼ばれている。まだ年も24歳と若く、子どもたちに人気がある。よく夕食時などに、息子は原先生の話を私と妻にしてくれる。ゲンジン先生が授業でこんなことを言った、休み時間にゲンジン先生とこんなことを話した……など。
 なぜゲンジン先生と呼ばれているかと言えば、学期はじめの或るとき、原先生が「原人」についての話を子どもたちにしたからのようだった。話の内容は難しくて分かりにくかったらしいが、それを話す原先生の独特の熱気に子どもたちは大いに刺激を受けたようで、以来子どもたちは親しみを込めて、原先生を「ゲンジン先生」というニックネームで呼んでいる。
 その日、夕食時にさっそく息子は私に聞いてきた。
「お父さん、ゲンジンについて教えてよ」
「ゲンジンって、あの原人のことかい?」
「ずっとずっと大昔に地球に住んでた、ゲンジン。お父さん詳しいんでしょ。ゲンジンについて」
「お父さんはそういう分野の専門家だから」
と妻が言った。
「いいけど……。でもどうして?」
「今日、先生が話をしてくれたの」
「原人についてかい……?」
 私は大学で古人類学の研究をしているので、人間の進化に関しては一応、専門家である。簡単にかいつまんで、原人や人間の進化について、息子に説明をした。
 説明をし終えると、息子は何故だか腑に落ちないような顔をしていた。
「説明が難しかったかい?」
「ううん、そうじゃないけど……。ゲンジンって、じゃあ今の僕たちとは関係ないの?」
「関係ないことはないよ。だって、大昔に彼らが進化して、いまの僕たちになったんだから」
「じゃあ、僕たちはいまもゲンジンと変わらない?」
「変わらないことはないよ。全然違うよ」
私は笑った。
「原人と僕たちでは脳の構造自体、違うんだから」
 息子はパクッとコロッケを食べたあと、しばらく考えるような顔をしてから、
「僕たちの中には、いまもゲンジンが生きてるかもしれない、って先生言ってたよ」
「どういうことだい?」
 息子はいつになく真剣な顔をしている。
「詳しいことはよく分からなかったけど、でも先生がそう言ってたの。ゲンジンはいまも僕たちのこころの中に生きてるって」
 私はよく分からないまま、ソースを口の端につけた息子の顔を見つめていた。


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